ハトマーク会員のビジネスモデル事例(すみれリビング㈱・岐阜宅建所属)/全宅連 不動産総研【RENOVATION】より

調査・レポート

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  • 2019.04.10

全宅連不動産総合研究所では、住宅確保要配慮者への居住支援や街づくり・地域活性化、空き家対策等、ハトマーク会員をはじめ全国の事業者が自らの事業を通じて社会や地域に貢献し、ビジネスとして成立させている先進的なビジネスモデルを自ら取材し、毎年報告書『RENOVATION』としてとりまとめ、ホームページで公表しています。

今回は『RENOVATION2017』に掲載のすみれリビング株式会社(岐阜)の事例です。

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信託のスキームで地域の課題解決にチャレンジ
~連綿と続く”縁”を大事に、100年続く企業を目指す~
すみれリビング株式会社 代表取締役 井上 正氏

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(この記事は全宅連不動産総合研究所が2018年6月に発行した『RENOVATION2017』に掲載された内容の転載です。掲載内容は2018年2月取材当時のものです。)

■建築、不動産、金融のトライアングル事業で総合的なサービスを提供する

─創業の経緯を教えてください。

井上社長:当社設立のベースにあるのは、父が創業し、今年で創業52年目を迎える建設会社「㈱井上工務店」で、私を含め兄弟4人全員が入社しています。飛騨高山は山に囲まれ木材商や木工技術が盛んな地域です。父方の祖父は代々木材商を営んでおり、母方の祖父は宮大工で、高山祭の屋台の設計や復元などをしておりました。父も大工を志し、社寺仏閣や文化財といった木造建築から商業建築、一般住宅などを手がけるとともに、製材業や林業にも手を広げました。私も1995年に入社後、国の重要文化財である白川郷合掌造りの再移築の現場監督など、祖父の代から続く大工技術の伝承と木を扱う仕事にずっと携わっていました。

2000年前後から、井上工務店もアパートやマンション建築の受注が増えて、建築だけでなく入居者の斡旋や管理をしていく必要がでてきたことから2003年に当社を設立しました。グループ内に不動産部門ができたことで建築部門と合わせて川上から川下まで一貫体制でオーナーと入居者のお手伝いができるようになりました。

宅建業を始めるにあたり、アパマンショップに加盟したのは、技術を習得するための時間を買ったことと、大村社長のフィロソフィに賛同したからです。そのなかで、『謙のみそれを為す』、つまり「謙虚な姿勢こそ、全てを為し得る基となる」という言葉を当社の社是にしました。

会社設立時に考えたのが、家業の建築業と不動産業、金融業の3つの事業をトライアングルの形で連携させて総合的なサービスとして提供することです。父はかねがね「どんなことも自分たちが全部できるようにしなくてはならない」と言っており、それは他人を排除するという意味ではなく、どんなニーズに対しても自分たちで解決し、実行できる力を持とうという教えでした。この3つを事業化できれば、オーナーに対しても地域に対しても総合的にソリューションの提案ができるようになります。

三番目の金融については2016年6月に管理型信託業の登録を取得し、すみれ地域信託株式会社※を設立しました。
※旧飛騨ITアセット信託株式会社。東海財務局長(信)第2号

 

■地域の役に立つために信託会社を設立

─地方都市の不動産業者が信託会社を設立したとは驚きです。

井上社長:信託会社には運用型と管理型の2種類があり、当社は全国で12社目の管理型信託会社で、東京・神奈川・大阪以外の地方都市では初めての設立になります。

地方都市は高齢化が進み、しかも自分の子供たちはよその場所に行ってしまい、多くの高齢者が独居か夫婦だけで住んでいる状況です。その人たちが先祖代々引き継いできた財産を、誰が管理し、どう継承するのかが大きな課題になっています。

信託会社をつくったのは、このような事業を立ち上げる時は収益性があるかどうか、つまり損か得かが判断の基準になりますが、私たちは地域の人たちの課題を解決することが目的ですので、地域にとって善いことなのか悪いことなのかという視点で判断しようと思ったことと、倒産隔離ができるという理由からです。

地域の人の財産を預かるわけですから、当社にもし何かあっても信託財産として全額保護される仕組みが必要ですし、不動産の仕事を通じて、家賃相場や、需要動向といったマーケットの状況を把握している強みも生かせます。建築・不動産・金融という3つの柱で地域の人の財産管理と、まちなかの空き家や、里山エリアの民家の有効活用をしていくつもりです。

─具体的に動き出している事例はありますか?

井上社長:まだ登録を取得して日が浅いのでこれからになりますが、まず考えているのが森林信託です。森林を所有者からお預かりして、小口の出口をしっかりつくることで山の資源を活用していくスキームです。山林を親から子供たちが相続する場合に、相続したけど使いようがないし、持っていてもどうしようもないので困るというケースが多くあります。それを私たちが預かり、バイオマスエネルギーの材料にしたり、建築材として利用する戦略を組み立てます。

当社のグループではヒノキ、スギ、ケヤキ、クリ、マツを『飛ひ騨だ五ご木ぼく』と名づけ、これらを工務店として建物に使ったり、地域商社として商品展開したりブランディングをしていくつもりです。

また、空き家や空き地を再生し、信託スキームを使って連続型で複数利活用できるスキームを計画しています。不動産との連携により、これまで動きづらかった物件を再生し、地域に役立つことができればと思っています。

─行政もその活動には注目しているのですね。

井上社長:先日、飛騨市役所で、当社と金融機関が一緒になり介護職員向けに介護セミナーを開催しました。テーマは通常の介護についてではなく、“金融”に焦点をあてた初めてのセミナーです。セミナーでは、財産管理を信託で行う意義を説明し、対象者の今の財産の状況を明らかにし、今後どうしたいのかということを共にじっくり考え、自分の意志をしっかり持つための取り組みを行い、その意志通りに執行するのが信託だという説明をしました。

最近相談を受ける内容で多いのは、例えば遠くに住んでいる子供の所に「1人暮らしのお父さんが深夜徘徊している」と連絡が入り、そこで初めて親が認知症になっていることを知るようなケースです。思いのほか重い症状なので引き取ることとなったのですが、家族の事情もあり施設に入ることを検討しましたが、お金もなく、家を売却して工面したいが本人に行為能力がないので処分できないという場合です。

このように地方の空き家問題は、単純に住む人がいなくなったという話だけでは済まなくなっており、介護やそのための資金づくりまで関連しています。

─信託登録はおりるまで時間がかかりました。

井上社長:信託業法が改正されたとき、不動産業者が新たなビジネスモデルを構築できるかもしれないと皆が思いました。しかし実際に蓋を開けてみると、信託業務をすることも、免許を取ることも非常にハードルは高く、一不動産業者がやろうと思うと相当な努力がいります。

当社も縁に恵まれたとはいえ免許取得まで10年かかりましたが、「これをしないと絶対次の扉は開かない」と思って取り組みました。地方再生や地域創生ができるのは、実需の状況がわかっている人、つまり地域の不動産業者です。私たちは信託のノウハウをお伝えし、各地域の不動産会社とも協力し、縁をつないで、まちの魅力を高めていくことができればと考えています。

─「不動産特定共同事業法」(以下、不特法)の改正も追い風になりますか?

井上社長:今年、不特法が改正され、事業者の資本金の要件が緩和され、登録制になることで、前より不動産特定共同事業のスキームが利用しやすくなります。この不特と信託を使えば、一度に多くの空き家の利活用ができるようになると思います。

さらに、信託とクラウドファンディングの組み合わせも親和性があります。現在のクラウドファンディングの多くは寄付型で、1つの案件に対し出し切りのお金を集める方法ですが、このお金を信託で預かり資金を循環させれば、複数の物件の利活用に使えるようになります。

まちづくりは、資金が循環し、単発ではなく多くの空き家が継続して利活用されないと意味がありません。信用組合や信用金庫といった地域金融機関とも連携し、地域ファイナンスを組んでいくことが不可欠になります。

また、建築・不動産・金融に加え、地域のまちづくりや空き家対策にもう1つ大事な要素が“ソフト力”です。当社ではインターンシップ制度を使い、半年間学生を受け入れています。その学生たちにワークショップを開催し、セルフで空き家のリノベーションをしてもらいます。“人”が関わると、関わった人はそこに思いを持ちます。

空き家を単純に修繕するのではなく、そこに“ストーリー性”を持たせることで家に愛着がわき、最終的に長く手を入れながら使ってもらえるようになります。クラウドファンディングと一緒で、一度きりではなく事業に連続性を持たせるためには、建物というハードと金融に加えて、“人”が関わるという要素がないと、まちづくりはできないと思います。私たちの仕事はそのようなソフト面まで視野に入れて準備をしなくてはなりません。

─2005年から「まちなか居住再生事業」のスタートなど、先進的な取り組みをしています。

井上社長:これは、高山市中心市街地の町家などに住む高齢者のかたに近所の集合住宅に住み替えてもらい、その空いた家を若い人たちに貸すことで、まちなかを活性化していこうという事業です。いわばコンパクトシティのようなイメージです。まちなかにマンションをつくるのは、「まちなかだから簡単に入居希望が集まるだろう」ということではなく、お客様の住まいの近くにつくれば、住み替えも行われ、空いた家を使いたいという人もうまく出てくるだろうという発想です。

まちの活性化は必要だと考えている人は多いですが、なかなか実施できません。それなら自分たちがリスクを負って動こうと、2007年に最初の物件として48戸の賃貸マンション『リバーフロント桜之宮』を建設しました。当初は不動産証券化スキームでやろうと考え国交省の支援事業にも選定されましたが、リーマンショックの影響で実現しませんでした。2014年にはもう1棟(46戸)竣工し、今年度も飛騨市にて予定しています。

─地域資源を生かすために、空き家の買い取りもしています。

井上社長:高山には町家を中心とした昔ながらの町並みが残り、観光資源にもなっています。その景観を守るという意味もあり、まだ数棟ですが買い取りを始めました。これらはまちなかにあるにもかかわらず、子ども達も継承できないと相談された案件です。買い取り後は改修して賃貸にしますが、町家だけでなく普通の空き家や空き店舗も対象にしています。解体された更地や駐車場が増えると町並みや景観が損なわれ、まちの衰退化が進みます。
そうならないように観光資源にはならない建物も買い取って活用することにしました。

 

■こまめなコミュニケーションで入居率90%超

─管理物件はどのくらいあるのですか?

井上社長:高山市の市営住宅の指定管理業者にもなっていますが、自社の管理物件は1,800~1,850戸ほどです。入居率は90~95%ぐらいで、自社物件についてはほぼ満室状態です。

─空室対策として工夫している点は何ですか?

井上社長:最も大事にしているのは「とにかくまめにコミュニケーションを取る」ということです。オーナーとは、入居者の悩みや相談内容を共有し、物件の管理状況や入居者の意見などを常時把握できるようなシステムを導入しています。
自動販売機ビジネスを始めたのも、防犯対策にもなり、自販機の管理とともに物件をつぶさに見て回れますし、積雪の多い冬場の需要を見込んで始めたコインランドリー事業も、入居者には福利まちなか移住再生プロジェクト第1号『リバーフロント桜之宮』第2号『PrimeResidence飛騨高山Ⅱ』町家を買い取り賃貸している物件厚生としてランドリーカードを差し上げています。

当社は経営指針の中で、「地域居住希望者様、オーナー様、協力業者様と共に手を取り合い、地域不動産市場の活性化を目指す」とうたっています。この「共に手を取り合い」を大切に、入居者とのコミュニケーションに力を入れています。


■すべての“縁”をつなげていく

─2014年には「100年ビジョン」を策定しています。

井上社長:ある経営塾に参加して、日本には100年以上続く老舗企業が多く、その企業に共通していることは経営に対する“道徳”というものがしっかり備わっているということを学び、私もこれからは「ものごとを“損得”ではなく、“善悪”で見よう」と考えました。企業経営では損得による数字は無視できませんが、相手にとって善いと思われることをしっかり実行していけば、その企業は必要とされ続けていきます。私の親が50年以上も事業を継続しているのも、企業経営をしていく上での“道徳”が備わっていたからだと思います。

「経営」という言葉は仏教用語です。「経典を営む」と書いて「経営」で、経典は人としてこの世に生まれてきた目的は何で、どうあるべきか、ということを説いているものです。この仏教の教えに通じる経営、つまり“道徳”を大切にする経営を父がしていなければ、私は経営者になっていなかったかもしれません。

せっかくこの会社を創業したわけですので、会社が長く継続することが経営者としての責務だと思いますし、「100年にわたって続けられるだけの、人としてのあり方をしっかり持たないといけない」という想いを込めて、当社のビジョンをつくりました。そのために大切なことは“縁”です。

“縁”が続いてきたからこそ今があるわけですので、これからも“縁”をつなげていくことの大切さをビジョンの中に示しました。

─その方法論として、信託を選択されたことは社長らしいと思います。

井上社長:信託は「後にどうつなげるか」が大事なことですし、管理も一緒です。1つの取引をしてそれで終わってしまう関係ではなく、“連綿と縁をつなぎ合わせる”ことが大切で、当社の100年ビジョンの考え方に合致しました。

─100年ビジョンと併せて、社内の評価や働き方も変えられています。

井上社長:社員自身に「自分がこの会社にどう貢献したか、どのように仕事してきたか」という思いを書き出してもらい、それをベースに対話をすることにしました。その人をしっかり見つめて評価したいと思い、社員1人ひとりが持つ価値観を共有し、会社のビジョンとどう融合させるかについてすり合わせを行っています。歩合制もやめました。にんじんをぶら下げた結果、業績は上がりましたが、“善悪”で見ると言っていたにもかかわらず“損得”で見ることになってしまいました。

また、社長の指示ではなく社員自身がすべきことを考えて動く仕組みづくりも検討しています。

そこで、ユニット経営という考え方を導入し、部門単位でPL(売上とコスト)を管理するようにすれば、必要な時間や優先順位を考慮しながら自分がどう動くべきかについて自分で判断できるようになるのではないかと考えています。
生産性の向上についても、社内業務の棚卸しとシステム化を図りつつ、働き方の改革にも取り組んでいます。2016年に「チャレンジ2025」を発表しました。今でも子育て中の女性も採用していますが、これからは男性社員も介護や子育てをする時間が必要になる時代がきますし、社員が週休3日でも十分生活ができて、むしろ給与も上がるようにしなければいけないと思っています。

─今年の3月に新社名になりました。

井上社長:採用活動の際などに社名に地域名が入っていると、営業地域が限定されるようにみえてしまうため、社名変更を検討していました。社名を考えるにあたっては、社内にCIVI(コーポレートアイデンティティ・ビジュアルアイデンティティ)チームをつくり検討してもらいました。当社がこれまで何を大切にしてきたのかなどについて、キーワードを出しながら話し合い、最終的に「すみれリビング」という社名案を出してくれました。

100年ビジョンにある“笑顔”から導いた「sすみれmile」と、「誠実・謙虚」という「すみれ」の花言葉が社是とつながりました。また、私が会社を設立した目的が、単に不動産の売買をするのではなく、オーナーの資産管理であり、ユーザーに多様な住まい方を提案することでしたので、そこから「リビング」という言葉を導き出し「すみれリビング」になりました。私の想いを理解した上で考えてくれたことがわかりましたので、迷うことなくOKしました。私の考えが社員に伝わっていたことが実感できてとても嬉しかったです。

【すみれリビング株式会社(旧:株式会社飛騨プロパティマネジメント)】
代表者:代表取締役 井上正
所在地:岐阜県高山市下岡本町2982-10
電話番号:0577-36-3351
H P:http://www.as-hida.jp/
事業内容:リーシング業、プロパティマネジメント業、ベンダー業(自動販売機、コインランドリー)

 

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RENOVATION2017(PDF)[13MB]