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会員のビジネスモデル事例(丸順不動産・大阪宅建所属)/全宅連 不動産総研【RENOVATION】より

2019.04.25

全宅連不動産総合研究所では、住宅確保要配慮者への居住支援や街づくり・地域活性化、空き家対策等、ハトマーク会員をはじめ全国の事業者が自らの事業を通じて社会や地域に貢献し、ビジネスとして成立させている先進的なビジネスモデルを自ら取材し、毎年報告書『RENOVATION』としてとりまとめ、ホームページで公表しています。

今回は『RENOVATION2017』に掲載の丸順不動産㈱(大阪)の事例です。

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“よき人”“よき商い”を育て、エリア価値を向上
~商いをさせていただいているまちに愛情を~
丸順不動産株式会社 代表取締役 小山 隆輝氏

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(この記事は全宅連不動産総合研究所が2017年6月に発行した『RENOVATION2017』に掲載された内容の転載です。掲載内容は2016年11月14日、15日に開催された大阪府宅建協会中央支部研修会での講演内容を編集したものです。)

■「あんたらみたいな不動産屋が頑張らないと、まちがどんどん寂しくなる」
当社は1924(大正13)年、大阪の城東区に「小山商店」として創業し、その後屋号を「丸順不動産」に変更しました。現在、私は3代目です。私がしている仕事は「既存建物を活用したエリアの価値向上」で、主に大阪市内南部の大阪市阿倍野区の昭和町、西田辺周辺エリアで活動しております。

阿倍野区昭和町ができたのは大正末から昭和初期で、環状線の内側に集中した人口増加に対応するため、それまで農村部だった阿倍野区や東住吉区を区画整理し、そこに民間投資で長屋が建築された“元祖ベッドタウン”です。長屋は1932~1937(昭和7~12)年頃に一気に建築されましたが、今では昭和町近辺で私の感覚では2割くらいしか残っていません。

当時の大阪は、今の東京に負けないくらいの国際都市で非常に活気がありましたが、その後陰りを見せ、長屋を壊した後の細長い土地が町中に散見されるようになりました。また小学校の児童数も減少し、私が通った小学校も2,000人をピークに現在は350人程度になってしまいました。この状況を目の当たりにし、私も「どうにかしないといけない」という問題意識は持っていましたが、それはまちづくりの観点からではなく、自分が商いをしている地域が衰退していくという心配からでした。

そんな時、今から20年ほど前ですが、行きつけの散髪屋から「あんたらみたいな不動産屋が頑張らないと、まちがどんどん寂しくなる」と言われました。それは、行政やまちづくりの団体だけではなく、「土地や建物を扱う不動産業者でもまちづくりや地域の活性化ができるのではないか」と気づかされた一言でした。

ただ実際、具体的にどこから始めたらいいのかも、どうすればいいのかもわかりません。そんな時、2003年9月に、地元の阿倍野区で長屋が登録有形文化財に指定されたとの新聞記事を読みました。驚いたのは「文化財になるような長屋がこの地域にある」という事実です。不動産業を25年やっていましたが、そんな長屋があるとは夢にも思っていませんでした。早速写真を頼りに自転車で探しに出かけましたが、行って見るとただの長屋です。「これが文化財に指定されるというのは、どういうことか?」というのが正直な感想でした。これが文化財になるなら、西田辺、昭和町界隈は文化財だらけということになります。そこで「地域の人間はそのポテンシャルに気づいてないが、外部の人たちは評価してくれている」ことを知りました。

その後ご縁があり、文化財に指定された『寺西家阿倍野長屋 』の家主と知り合いになりました。家主からはこの長屋の外観を直して飲食店に活用したいので一緒に手伝ってほしいと相談を受けました。家主が1,600万円かけて外観を建築当時の趣に戻す改修をし、当社がテナント付けを行い、現在はイタリアン、日本料理、高級お好み焼き、中華料理の4店が営業しています。

この長屋再生に携わったことで、私はいくつかのことに気づきました。1つ目は、この『寺西家阿倍野長屋』のように、長屋には大きな可能性があるということです。しかし、長屋の典型的な間取りは二間の間口しかないので、建て替えても同じような間取りしか取れません。今後人口が減少し、家がますます余り、消費者の物件選びの選択肢が増えるなかで、「誰がこんな二間間口の家に住むのか? 誰がこの地域に移り住もうと思うのか?」と、逆に心配になりました。

大阪市と阿倍野区の封鎖人口※1は、2010年を100とすると2040年には大阪市で15%、阿倍野区で20%の減少が予想されています。今でこそ阿倍野区は人気地域ですが、10年後の姿を想像した時に「住みたいと思えるまち、選んでもらえるまちを目指さないと、自分が商売している場所が衰退してしまう」「そうなる前に何とかしないといけない」と改めて感じたのが2つ目の気づきです。3つ目は、2006年3月に日本政策投資銀行が発表した、東京中心部でのオフィスビルのコンバージョン事例のレポートです。これを読み、既存建築物を活用して地域を再生することができるという可能性を知りました。
※1 出生と死亡のみ考慮して推計した地域人口

例えば100件のうち1件だけが空き家の場合は所有者と両隣の住民の問題で済みますが、これが30件にもなると地域の空き家の問題になります。人がまちを選ばなくなると、家賃を下げてもリノベーションしても人は集まりません。そうなると、個別不動産での問題解決ではなく、エリア全体の価値を向上させる、つまり人気のあるエリアにしないと空き家問題は解消できないということになります。


■豊かさを実感できるまちをつくる

私が考える“エリアの価値が向上する”ということは「そこに暮らす人や働く人たちが、豊かさを実感できること」です。では豊かさを実感してもらうためには何が必要になるでしょうか。それは、「まちに“よき商い”をつくり、育てて、守る」ことだと思います。“よき商い”とは、例えば週末に車や電車で出かけなくても、少し歩けばおいしい食事ができて夫婦でゆっくり会話ができる、そんな店があればそのまちは素敵ですよね。素敵な店が町中に点在していることが、生活を豊かに感じることにつながると思います。

そのために大切なことは、①まちのコンセプトをつくること、②まちをデザインすること、③人を選ぶことの3点です。まちにはそれぞれに特徴があります。私は昭和町を「上質な下町」というコンセプトにして、ことあるごとに周囲に伝えています。無秩序に店舗を誘致した結果、賑やかにはなりましたが住みづらくなったと感じるまちもあります。そうならないように、まちの歴史を踏まえ、商店、物販、飲食店等のゾーニングを考えながら、住む人の負担にならないようにまちをデザインすることが大切です。そして最も大事な点はまちの主役は“人”だということです。「質の高い商いをする人、人を引き寄せる魅力のある人、情報発信力のある人」を選んで、まちに入ってきてもらうことが重要です。

 

■資金不足問題解決のための8つの対処法
ただ、そのような人ほど資金力が乏しいのが現状です。では、私が魅力的だと感じる人たちの資金不足の問題に、どう対処すればいいでしょうか? 具体的な8つのコツをご紹介します。

1.開業後しばらく家賃設定を低くして開業のハードルを下げる
開業後3年、長い場合は5年程度、家賃設定を低くして開業のハードルを下げること。定期借家契約にして3年間頑張ってもらい、商売が一人前になる3年目以降は通常の家賃にします。代表的な例は当社で2番目の長屋活用例となった『金魚カフェ』です。まだ昭和町が注目されていない時期に創業したパイオニア的なお店ですが、建物の中は大正時代のままで、住宅として貸すための整備はされていませんでした。また、借地ですので地代を払う必要があり、800万〜1,000万円かけて改装すると家主は採算が合いません。そこで入居者負担で内装の改修工事をしてもらい、最初の3年間は毎月支払う地代+α程度の安い賃料設定にしました。

2.店舗付住宅を供給する
店舗付住宅は、昭和40年代に多く供給され、今でも非常に人気があります。西田辺・昭和町近辺でワンルームマンションを借りると5万円、それに店舗家賃が8万~10万円となるので毎月合計15万円くらいかかります。15万円の売上を安定して出していくのは難しいので、店舗付住宅を貸せることができれば家賃が7~9万円程度に抑えられ、開業のハードルが下がります。『桃ヶ池長屋』(昭和4年築)の例では、10年前に入居者が半年かけてDIYで店舗をつくり、住みながら商いを始めました。家主も最初は半信半疑でしたがこの店がうまくいったことから、外観を改修するなどの投資をしてくれています。この10年で4件のテナント付けができ、体に優しい食堂やオーダーメイドの洋服店、陶器店、バーが並んでいます。

3.工事費を分担して家主とつくる
昭和初期の長屋で、内部が未整備の段階で入居者を見つけ、家主には内部解体・内装基礎工事と電気・水道設備の幹線引き込みや外壁の補修をお願いし、それ以外を入居者が負担しました。家主と借主が役割と費用を分担し、協力しながらつくっていくという形です。そうやって始めた『昭和町おうちカフェきっちん』は小さな長屋でしたが、今はフレンチレストランで料理教室も開催しています。

4.小さな面積の物件をつくり、開業のハードルを下げる
昭和33年建築の古ビル『昭南ビル』は、1階に信用金庫が入り、2・3階は1部屋が3~4坪のアパートで、各部屋にはミニキッチンがあり、トイレは各階に共同で1つという物件です。このアパート部分が空室になり何とかしてほしいと家主から相談を受けました。地下鉄昭和町駅から徒歩1分という立地でしたので、アパートをコンバージョンしてオフィスとして貸し出すことにしました。きちんとしたオフィスビルに改修するには膨大な費用がかかるため、必要最低限度の手直しだけにしました。この物件の場合は「日々のくらしに、小さな出会いと発見を」というコンセプトを決め、女性で、初めて起業する人に限定してテナントを募集しました。1人ひとり面接をしてコンセプトにあった起業家をこちら側でしっかりと選んだことがポイントです。コンパクトな間取りなので開業リスクが最小限に抑えられるとともに、内装の改修費も家主が一部負担する仕組みにして、借主の初期費用を軽減しました。

5.駅前の大通りより、家賃の安い裏通りで古い建物を活用する
大通りや駅前より家賃が安い裏通りで商売してくれる人を見つけることが大切です。駅から離れていても、家賃が安ければやりたいという人はたくさんいますので、そういう人と物件をマッチングさせていきます。このような物件ではお店の看板を出しても集客できませんので、SNS等をうまく活用し、立地のマイナス面をカバーできる手法を知っているテナントを見つけます。

6.家主が安心して貸せるように、家主と借主を平等な契約にする
登録文化財に指定された物件があり、家主が社会的意義のある形で貸したいという希望を持っていました。そこで地元の社会福祉法人とマッチングし、障がい者が一定期間共同生活を送るための訓練拠点として活用することになりました。特殊な用途に対応するため内装を大幅に改修する必要があり1,800万円程度かかりました。そのため借主が短期間で事業をやめてしまうと家主に負担がかかるため、15年の定期借家契約にし、借主側には転貸可能の条件を付けました。

7.用途変更する
2階建ての事務所ビルで、1階にはカフェがオープン済みでしたが2階の事務所スペースが5年間空室でした。そこを現在はインバウンド向けのゲストハウスとして活用してもらっています。この他にも倉庫を弦楽器の工房に用途変更して使っている例もあります。

8.レンタルを活用し、チャレンジしやすい環境をつくる
時間制のレンタルキッチンをつくりました。やはり一番利用が多いのは料理教室です。公共の施設では制約があり使いづらい上に、生徒さんは素敵な空間で料理を学び、作った料理をSNSで公開したいという希望があります。そのために空間の演出が必要だというニーズに対応できました。

番外編.そのエリアに空き家を増やさない
阿倍野区長池の文化住宅※2で、ワークショップを取り入れたリノベーションを実施しました。専門家による指導の下、壁に漆喰を塗る、和紙製の壁紙貼りという2日間のワークショップを開催し、延べ17~18人が参加しました。その際、まち歩きも行い、地域を知ってもらうようにしたところ、参加者のうち3人からその住宅に「住みたい」という声があがり、そのうち1人は実際に住んでいます。自分で手がけたという体験とまち歩きで地域を知
ったことが、人を呼び込むことにつながった例です。二世帯住宅で上の階が空いているという物件もたくさんあります。それを部分貸しにして上の階に若い人に入ってもらうようにすれば高齢の所有者と新たな入居者との交流も生まれ、まちの活性化につながると思います。また、店舗以外にもデイサービス拠点に用途変更したり、児童文庫室をつくったりして福祉拠点をまちなかに1件ずつ“植え込む”ようなイメージで進めているものもあります。良質なコミュニティを形成する手法としてコーポラティブハウスにも取り組みました。

※2 近畿地方の集合住宅の一呼称。 1950-60年代の高度経済成長期に使われ始めた用語で、瓦葺きの木造モルタル2階建てで、1-2階のつながったメゾネット、あるいは各階に長屋状に住戸が並んだ風呂なしアパートを指す。

 

■“よき商い”を守る活動が必要
これまでは“新しいコンテンツ”を外から中に入れていく話でしたが、すでに地域にある商店、古い商店も守らないといけません。そこで現在取り組んでいるのは、『Buy Local』という活動で、年1回この地域でマーケットを開催しています。出店は、通常のマーケットのような公募スタイルではなく、地元で生活している7人が実行委員会になり、彼らが「この店は“よい商い”をしているので、まちの皆さんに知ってもらいましょう、守っていきましょう」という観点で、お店を推薦し合って決めていきます。これまでに4回開催し、毎回約30店舗が出店しています。

マーケットには若い人がやっているおしゃれなお店も出店しますが、私たちが守りたいと考えているのは、商店街で古くから商売している漬物店や日本茶販売店などで、そのようなお店を地域に紹介しもっと地域の皆さんに購入してもらいたいと思っています。まちに潤いを与えてくれる商店も残すことがエリアの価値向上には大切だと考えています。

 

■専門家と連携して解決策を見つける
人気のあるまちをつくるためにどうすればいいのでしょうか。それはまず、“エリアの価値を上げる”ということを意識して取り組むこと。次に、新しい“よい商い”を増やすために、既存の建物を活用の仕方を考えること。3番目が『BuyLocal』。つまり新しい商いを入れるだけでなく、既存の商いを守ることも大切で、出る側を絞らないとまちに良いストックが増えません。4番目がSNSをうまく活用してまちの情報を発信すること、そして最後に、NPOや社会福祉法人などの地域組織と連携することです。

私は地域の一不動産業者です。情熱はあっても全てを解決する能力はありません。そこで、それぞれの専門性を持つ建築士やまちづくりコンサルタント、そして私を含む7人で、専門家集団『Be-Localパートナーズ』というユニットを結成して活動しています。自分1人で背負い込むのではなく、専門家とうまく連携しながらやっていくということもとても大切です。

地域で活動する不動産会社のこれからの役割としては、まず「まちの入り口になる」ことだと思います。「あのまちに住みたい」「あそこで商売したい」という人が、地域の不動産会社に行けば、いろいろな情報を教えてもらえる、人を紹介してくれると思ってもらえる存在になることが大事です。さらに、「土地や建物の活用を通じ、まちの商いの担い手同士が結びつく触媒になる」こと。日常的な不動産の業務を通じ、まちのお世話をするような存在になっていくことが大切です。それがエリアマネジメントやタウンマネジメントにつながっていくと思います。そして一番重要なことは、自分が住んでいるまち・商いをさせていただいているまちへの愛情と、そこに住んでいる人への愛情です。結局それが私を突き動かしているのだと思います。


【丸順不動産株式会社】

代表者:代表取締役 小山隆輝
所在地:大阪府大阪市阿倍野区昭和町5-12-23
電話番号:06-6621-0201
H P:http://www.marujun.com/
事業内容:土地建物の売買交換の仲介、土地建物の賃貸借の仲介、不動産に関するコンサルティング、建物の有効活用、貸地・貸家・駐車場の管理

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この事例が掲載されている報告書『RENOVATION2017』の全編は全宅連ホームページからご覧いただけます。

RENOVATION2017(PDF)[13MB]

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