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会員のビジネスモデル事例:フラット・エージェンシー①(京都宅建所属)/全宅連 不動産総研【RENOVATION】より

2019.07.08

全宅連不動産総合研究所では、住宅確保要配慮者への居住支援や街づくり・地域活性化、空き家対策等、ハトマーク会員をはじめ全国の事業者が自らの事業を通じて社会や地域に貢献し、ビジネスとして成立させている先進的なビジネスモデルを自ら取材し、毎年報告書『RENOVATION』としてとりまとめ、ホームページで公表しています。

今回は『RENOVATION2018』に掲載の㈱フラット・エージェンシー(京都)の事例です。

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不動産業は地域に根差した「まちづくり業」
~若手起業家、学生、留学生を支援し、地域を活性化させる~
株式会社フラット・エージェンシー 代表取締役 吉田創一氏
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(この記事は全宅連不動産総合研究所が2018年6月に発行した『RENOVATION2018』に掲載された内容の転載です。掲載内容は2017年9月取材当時のものです。)

■地域の「まちづくり業」を目指す

─43年前の創業当時から学生向けのビジネスを展開していたのですか?

吉田社長:創業のきっかけは、父が若い頃に世界を旅し、滞在先のイギリスで親身になって部屋を探してもらった経験から、日本に来る外国人のお世話をしたいと考えたことでした。当時は外国人の入居を許可してくれる大家は少なく、苦労をしたようですが、店舗の近くに大学が多かったことから、学生向けの賃貸の斡旋と管理を主として事業を広げていきました。

─まちづくりに早くから取り組まれています。

吉田社長:1997年に当時の建設省から発表された「不動産業リノベーション報告書」には、“これからの不動産業はまちづくり産業を目指すべきだ”ということが示されていました。この業界は社会からあまり信頼されてないことをずっと感じていましたので、この言葉で当社が目指す方向が明確になりました。その頃から私たちは、地域の“よろず相談所”の役割を果たして人と人をつなぎ、地域にある課題や問題を拾い集めて、どうすれば解決できるのかについて考え始めました。

■若手起業家支援と地域活性を目指す

─地元の商店街の活性化に取り組まれています。

吉田社長:当社の近くにある新大宮商店街は古い商店街で、その中には京町家も結構並んでいます。3~4年前からシャッターを閉める店も増えており、どうしたら昔の活気を取り戻せるのかについて考えていました。そこで、当社は町家の改修の実績もありましたので、それを活用すれば若い事業家を呼べるのではないかと思い、商店の所有者に1軒1軒訪問して回りました。

─具体的にどのような手法で行ったのでしょう。

吉田社長:ポイントは2つあります。「前払い家賃制度」を導入したことと、「若手起業家支援」と「地域活性」を目的に用途を検討したことです。

商店のオーナーの中には改修費を出せない人もいますし、町家をそのまま子どもに承継したいという人もいます。そこで、オーナーと10年間の定期借家契約を結び、当社が所有者に10年分の家賃を一括で前払いします。その費用でオーナーは改修をし、改修後の物件を当社が転貸するスキームです。この方法なら、改修部分の所有権の帰属先はオーナーになりますし、転貸終了後はきれいな状態で家が戻ってきます。

吉田社長:改修した町家はゲストハウスやカフェやバル、チョコレート製造販売などのお店になっています。町家を活用し、若い事業家が商店街に入ってくれば地域が活性化します。そのために、当初3年間は低い家賃設定にし、商売が順調になれば家賃を上げていくなど、彼らがスタートアップしやすい方法も取り入れています。また、当社でも一級建築士を採用し、町家の工事を直接請け負える体制を整えました。京都で事業をしたいという若い起業家は結構いますので、オーナーもテナントも当社も利益が上がる持続的なビジネスになりつつあります。

一方、部屋を借りに来る学生に聞くと、家と学校またはバイト先の往復しかしておらず、4年間過ごしても京都のことをあまり知らないことがわかりました。せっかく京都に勉強に来ているのだから、まちをもっと好きになってもらいたいという気持ちもあり、新大宮商店街が彼らの寄り道の場所になればと思っています。そのためには、若い事業家と商店街の人たちが融合して新たなコミュニティをつくることが大切ですし、私たち不動産業者は、そのお手伝いをしながら、地域の魅力をもっと外に発信しなくてはなりません。そうすれば、さらに地域に人が集まるようになり、結果的に私たちのビジネスにつながっていきます。

商店街に180軒くらいの店があるなか、当社が若い事業者に仲介した案件はこの2年間で16件になりました。商店街の取り組みが盛り上がってきたおかげで、新しいお付き合いも生まれましたし、京都市がモデルケースとして注目してくれ、いろいろ相談してくれるようになりました。

─「TAMARIBA」というコミュニティスペースも運営されています。

吉田社長:学生に聞いても地域の人に聞いても、残念ながら不動産会社には怖いイメージがあり、簡単には相談に行きにくいといわれます。そこで、オープンな雰囲気にして地域の人に気軽に相談に来てもらえるような場所として「TAMARIBA(たまり場)」をつくりました。社有の賃貸マンションの商業スペースを改装し、1階にカフェとオープンスペース、奥に「すまい相談室」を設け、2階を管理事務所にしました。相談室は常駐ではなく、相談員が2階から下りてきます。カフェで儲けるつもりは全くありませんでしたが、リフォームの案件を年20数件ほどいただくようになりました。

吉田社長:当初は不動産の相談窓口として始めましたが、最近では地域の人が使ってくれるようになりました。1階のオープンスペースは無料で貸し出しているので、絵画展などのイベントが年130回ほど開かれています。正月には餅つき大会、夏にはマルシェを開催します。地域の人が集まり交流が生まれ、徐々に地域に根付いた場所になりつつあります。

─商店街以外にも、学校や工場跡地などいろいろな活用の提案をされています。

吉田社長:10年前に閉校になった美術学校の所有者から、建物の活用方法について相談され、シェアアトリエ「THE SITE」をつくりました。この物件から自転車で行ける範囲には京都造形芸術大学や京都精華大学など芸術大学がいくつかあり、その学生たちに聞くと、卒業したあと引き続き制作をしたり、作品を保管しておく場所がなく、結局あきらめたり実家に戻ったりしているとのことでした。確かに芸術で活躍できる人はごく一握りかもしれませんが、卒業後も京都に残り、活動してもらいたいとの思いで、安い家賃で借りられる工房兼シェアアトリエをつくったのです。

吉田社長:「385PLACE」は西陣織の工場で、オーナーから使っていないフロアを貸せないかと相談があった物件です。この物件は西陣織の需要が高かった時代に建てられた立派な建物ですが、一般的な事務所では立地的にテナントを見つけるのが難しい場所です。ここも、近くに同志社大学や立命館大学があることから、学生や若い起業家が使えるシェアオフィスにしました。

─京町家の保全にも尽力されています。

吉田社長:京町家は京都の宝です。2000年に当社が開催したセミナーがきっかけで京町家を仲介したことがありますが、そのあと借主が何千万円もかけて改修した物件を見て、その素晴らしさに感動し、町家の利用が京都の活性化につながると確信しました。そこで十数年前からその保全と活用に取り組み、店舗と住居合わせて累計で250軒程度を再生してきました。当社は賃貸事業が中心なので買取りではなく、借りて運用する方法をとっていますので、最近は、空き家になってはいるけれどまだ手放したくないというオーナーからの問い合わせが増えています。

京町家については同業者が一緒になって守っていこうという雰囲気が形成されており、京都府景観条例ができたのもその影響が大きいと思います。(公財)京都市景観・まちづくりセンターには現会長の父が参加し、京町家の専門相談員という役割も務めています。

②に続く

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【株式会社フラット・エージェンシー】
代表者:吉田 創一
所在地:京都市北区紫野西御所田町 9-1
電 話:0120-75-0669
H  P:https://flat-a.co.jp/
業務内容:賃貸仲介や不動産売買、建築、リフォーム業をはじめ、京町家の保全と再生に関わる事業や、短期滞在型賃貸などを展開する。また、新大宮商店街の活性化などにも積極的に取り組んでおり、多目的スペース等を併設した地域の交流サロン『TAMARIBA』を運営している。

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この事例が掲載されている報告書『RENOVATION2018』の全編は全宅連ホームページからご覧いただけます。
RENOVATION2018(PDF)[80MB]

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